コラム

もうすぐ80歳のお母さん。「後見人」をつけないとダメ?

B子さんのお母さんは、もうすぐ、80歳。万が一、お母さんが「認知症」になってお金の出し入れが出来なくなってしまった場合はどうしたらいいか、銀行の担当者に聞いてみたところ「お母様に、後見人をつけてください。」と言われてしまいました。

財産には「名義」があり、本人名義の財産は本人しか使えないのが原則です。認知症で本人の判断能力が低下し「意思確認」ができないとなると、たとえご家族がいても、前々から財産の管理や処分について頼まれていたとしても、家族が本人に代わって判断することはできず、銀行の預金は凍結されてしまいます。

「後見人」とは「法定後見人選任の申立て」によって家庭裁判所に選ばれた人が、本人に代わって様々な「判断」をして、本人の財産と暮らしを、本人が他界するまで守ってくれるものです。

ただし、B子さんのお母さんのように、判断能力が十分な方が「後見人」の制度を利用することはできません。本人の判断能力が低下しているか否かは、主治医の診断や精神鑑定を経て決まります。銀行の担当者や子どもたちが勝手に決めつけることはできないのです。

それでは、B子さんのお母さんのように「認知症は心配だが、まだまだ判断能力は十分ある」場合は、どのような備えができるのでしょうか?

認知症による資産凍結から財産を守る制度は、3つあります。
任意後見」「家族信託」「法定後見」です。

任意後見(お母さんの判断能力が低下する前)

・任意後見人…お母さんが信頼できる誰か(家族や知人、専門職でも可)が、お母さんのすべての財産の管理と身上監護まで行う権限を持つことができる。

・業務スタート…契約後、お母さんの判断能力が低下した時。

・家庭裁判所の関与…あり。後見人がきちんと職務を遂行しているのかを監督する。

・報酬の発生…裁判所が選んだ後見監督人への報酬が必要。


家族信託(お母さんの判断能力が低下する前)

・受託者…お母さんが信頼できる家族が、信託された財産を管理する権限を持つ。

・業務スタート…契約後すぐ

・家庭裁判所の関与…なし

・報酬の発生…なし


法定後見(お母さんの判断能力が低下した後)

・後見人…お母さんの全財産の管理と身上監護をする権限をもつ。(すでにお母さんの判断能力が低下しているため、お母さんが好きな人を「後見人」に選ぶということはできない。)

・業務スタート…裁判所から後見人を審判決定後すぐにスタート。

・家庭裁判所の関与…あり。後見人がきちんと職務を遂行しているのかを監督する。

・報酬の発生…裁判所が選んだ後見人や後見監督人への報酬が必要。

B子さんは、銀行で言われた一連の事情をお母さんに話してみることにしました。

・認知症などでお母さんの判断能力が低下すると、預貯金が凍結され、B子さんがいても下ろせなくなること
・凍結した預貯金を、お母さんのために使うには家庭裁判所に「後見人」を選んでもらわないといけないこと
・「後見人」は、家庭裁判所が選任するため、家族がなれないかもしれないこと
・B子さんは、自分でできる限りお母さんのお世話をしたいと思っていること
・B子さんは、専業主婦なので、お母さんの介護費用を自分で賄うことができないことが心配なこと

お母さんの意見はこうでした。

・実は、最近体力に自信がなくなってきたが、一人娘のB子さんに迷惑をかけたくないと思って黙っていた
・銀行でお金を下ろそうとするたびに、「何に使うのか」「どこに振り込むのか」と聞かれるのが嫌で、タンスに800万円隠し持っている
・万が一介護が大変になったら、家を売って施設に入ろうと思っている

母娘2人の家族会議の結果、

①高齢のお母さんが、800万円もの大金をタンス預金しているのは危険
②将来の施設入居に備え、実家を売却できるようにしておいた方がよい
③お母さんはB子さんのことを信頼しているので家庭裁判所の関与はいらない

B子さんとお母さんは、以下のような「家族信託」をしておくことにしました。
それと同時に、かかりつけのお医者さんにも相談して、今後のお母さんの体調の変化に対応していけるようにすることにしました。

信託契約の内容
委託者(財産を託する人)お母さん
受託者(財産を託される人)B子さん
受益者(信託の利益を得る人)お母さん
信託財産(預ける財産)①今住んでいる自宅
②タンス預金していた800万円
信託の目的お母さんの安心な老後の生活を実現すること
受託者の権限実家の管理、売却、売却代金の管理とお母さんの生活・介護・医療費の支払い
信託終了時お母さんが他界したら終了する
すべての財産を換金して、B子さんへ引き継ぐ

上記のような信託契約を結ぶことによって、以下のようなメリットが得られます。

≪メリット≫
①お母さんがタンス預金していた800万円を安全に保管できる
②お母さんに大きなお金が必要になった場合は、B子さんがいつでもお金を届けてあげられる
③お母さんが認知症になった後も、資産は凍結せず、B子さんが契約内容に従って財産管理をすることができる
④お母さんが施設へ入居して、実家が空き家になった場合、B子さんが実家を売却して介護費用に充てることができる
⑤B子さんは、お母さんの資産を預かっているだけなので、贈与税がかかることはない
⑥お母さんから信託された財産と、B子さんの個人の財産は分別して管理ができるため、お母さんやB子さんの夫への説明がしやすい
⑦任意後見人や法定後見人とは違い、家庭裁判所の関与がないため、月々の費用がかからない
⑧信託財産の信託終了時(お母さんが他界した時)の扱いについてまで、契約で定めておけるため、お母さんが他界した時に資産が凍結して葬儀費用が出せずに困ったということがない
⑨お母さんのお金が出せなくなる、タンス預金をなくしてしまうという心配がなくなったので、B子さんもお母さんも安心して生活を送れるようになる

B子さんのように、親が認知症で判断能力が低下する前なら、「家族信託」を使うのか「任意後見」を使うのか、それともこのまま何もしないのかを比較検討することができます。

それが「家族信託」を検討する一番のメリットといえます。
親が80歳になったら、まずは「家族信託」を検討してみてはいかがでしょうか。

【引用元】山口先生コラム「やさしい家族信託」第3回:80代の2人に1人が認知症?もうすぐ80歳のお母さん。「後見人」をつけないとダメ?

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